開発する教育カリキュラム・プログラムの概要

本校のように「美容師養成施設」として指定された学校では、「美容師養成施設指定規則」(以下「規則」)に定められたカリキュラムに基づいた授業の実施が求められる。このカリキュラムにおいて、全学習時間は2010時間で、うち1410時間は「規則」に定められた必須課目の学習が求められる。残り600時間の選択課目の内容は各施設が自由に設定できる。
上記は学習者の国籍に関係なく適用されるので、現状、外国人であっても美容師免許を所得できるし、実際、本校に在籍した外国人で美容師免許を取得した者は500名を超えている。しかし、その者たちの多くは出身国に帰国し、残りの者は国内において美容師免許と無関係の職業に就いている。
今後、国家戦略特区が適用され、美容師免許を取得した外国人が国内の美容サロン等で働くとしたとき、その者たちが日本人美容師とともに、日本人顧客に施術することは初めての出来事になるので、そのことを見据えたカリキュラムが必要である。

全体設計

下表は美容師養成施設指定規則に定められた美容師養成施設に実施が求められる課目の一覧と、それぞれの科目の単位数・時間数である。

美容師養成施設に実施が求められる課目

本事業では、この表の「選択」課目を活用し、ここに、外国人美容師が履修するべき課目を配することを考えた。選択課目は全部で600時間であるが、うち半数は既存の選択課目を配することとし、残りの半数、すなわち300時間を目安に、外国人美容師が履修すべき課目の体系化を試みた。その結果は下図である。

美容師養成施設に実施が求められる課目体系

太字部分(BおよびC)は選択課目の一部として正規カリキュラムの中に組み込む部分であることを意味する。太字でない部分(AおよびD)は外国人留学生にとってオプショナルな選択を意味する部分であることを意味する。Aは入学前に履修することを前提としたもので、Dは卒業後、就職する前に履修することをイメージしたものである。

外国人美容師育成プログラムの構成

就職前(生産性向上)

美容業界の技術的な1大テーマは、施術品質を一定以上に保った生産性向上である。特に、パーマはどの美容サロンでも中心的な技術要素であり、その分野で標準的な技術を発揮することは、外国人がわが国で美容師として生き残るために必須なことである。その意味から、本事業では、いくつかの局面で標準的なパーマ技術を取り扱ったオンデマンド映像による動画講義を実施することとした。
なお、本授業の外国人向け資料は、フルスペック、すなわち、シラバス(日中対応)、中国語によるテロップあり、オンライン講座(Google Classroomを使用)、ルーブリックによる評価などを組み込んだものである。

中核

これは、美容師養成施設における選択課目の中で取り扱われることを意識した科目であり、全体300超時間の多くを占める位置づけにある。主に、講義科目として、「技能」「接遇」「経営」の3つに分類した。

  1. 技能
    技術的な側面で美容師にとって実践的な要素を取り扱ったものである。
  2. 接遇
    美容サロンに来る客と接するという意味で実践的な要素を取り扱ったものである。
  3. 経営
    美容サロンの経営に携わるという意味で実践的な要素を取り扱ったものである。美容師養成施設で必須となる「運営管理」課目にプラスアルファする内容となっている。
特別

外国人美容師を特に意識したとき、特に、外国人が理解しにくいと思われるわが国の美容文化の発展経緯に対する理解を助長する必要性が高いと思われる。また、わが国で用いられる美容用語の多くは英語由来の外来語であり、漢字文化には抵抗を示さない中国語圏の学生にとって、また、わが国の学生にとって理解しにくい側面がある。これらの分野を意識した「特別」な選択課目として、「美容文化論」「主要用語日中対照」を設けることにした。

入学前(日本語能力向上)

外国人が専門学校に入学するには、一般的に、日本語能力試験(国際交流基金、日本国際教育支援協会の共催)の2級(いわゆる、N2)に相当する日本語能力が必要である。ただし、これは専門学校に入学する必須の条件ではなく、美容サロンでかわされる、客と美容師の日本語会話に実践的に特化した日本語能力に絞って講義することとした。

 なお、次の表は、各段階における実証講座の開発経緯を示すワークシートのコピーである。

カリキュラムと実証講座を対照させたワークシート